
アルジャジーラというTV局がある。アメリカのアフガニスタン侵攻、イラク戦争、オサマ・ビン・ラディンなど中東のニュースになると必ずといっていいほど耳にすることになるTV局だ。アルジャジーラが何かを知らなくても、その名前を聞いたことがない人はいないだろう。では、数ある中東のTV局の中でなぜアルジャジーラだけが中東より遠く離れた極東の日本でもその名前を知られているのか?アルジャジーラとは一体何なのか?この本を読んだのはそんな率直な疑問からでした。
アルジャジーラの歴史は驚くほど浅く、1996年カタール首長より1億3700万ドルの資金提供を受け、中東の小国カタールのドーハに本部を構えるTV局として誕生した。当時の中東のTV局は完全に情報相の管理下に置かれ、事実を自国の都合のいいように歪曲して放送する、あるいは権力者を称える映像を流すなど完全に政府のプロパガンダ手段のひとつとして存在していた。しかし青年時代をヨーロッパの高度な教育を受けて育った現カタール首長は公正な報道の重要性というものを認識した識者であった。
自ら1億3700万ドルという大金を出資(1939年に原油が発見され産油国となったカタールは非常に豊かな国で、それが生み出すオイルマネーは莫大)しておきながらアルジャジーラと「カタール首長の介入を受けない独立した放送局として運営され、万一その独立が損なわれた場合には、編集局スタッフ全員が辞職する」という合意をしていることからも現カタール首長が前首長、そして多くのアラブ諸国のように保守的ではなく、開かれた政治を行っていることが窺える。
そのようにして誕生したアルジャジーラのモットーは“ひとつの意見があれば、また別の意見がある”だ。政府のプロパガンダとしての役割しか与えられていなかった当時のアラブ世界のTVにあってアルジャジーラの敵対する二国の主張の放送、司会者の歯に衣着せぬ発言、活発な意見が交換される討論番組は人々を熱狂させ、TVに釘付けにした。オサマ・ビン・ラディンやアルカイダが他のTV局ではなくアルジャジーラにテープを送り続けた理由もその視聴者の多さとともにアルジャジーラが事実を歪めず、どんな内容であってもそこにニュース価値があれば必ず放送する唯一のTV局であることを知っていらからに他ならない。
しかし、それ故にアルジャジーラには敵が多い。放送で貶された国からは支局閉鎖、大使召還、国交断絶の嵐。リビアの最高権力者カダフィ大佐は放送を止めるために首都に大停電を起こした。アメリカはアルジャジーラはアルカイダ組織と繋がりがある(例によって証拠は提示されていない)としてアルジャジーラのカブール支局に2個の500ポンド爆弾を投下、爆破(!)している。また、イラク戦争時にはバグダット陥落後、またもアメリカ軍により支局にミサイルが打ち込まれた(!!)この攻撃では記者一人が命を落としている。アメリカ軍の主張は“支局方面より敵の激しい攻撃に晒されたための反撃。”しかし、アルジャジーラは安全のため事前にアメリカ軍に支局の正確な座標を知らせていたという・・・
このようにアルジャジーラの立場は非常に厳しいと言わざるをえない(アラブ世界の広告業界を牛耳っているサウジアラビアはアルジャジーラをすこぶる嫌っているため、アルジャジーラは主要な広告主を見つけられないでいる。このためこれだけの知名度、視聴者を持ちながらも2004年の段階でアルジャジーラはいまだに赤字である・・・)しかし、彼らはニュース価値のあるすべての意見を放送することを止めようとはしないし、アメリカ政府から圧力をかけられてもカタール政府は公正な報道を害うようなことはしていない。
アメリカのタブロイド誌ニューズデイの見出しこそがアルジャジーラへの最大の賛辞であるように思う。
“最も優れた戦争報道を行っていたのはどこかって?アルジャジーラを観てごらん”